建築家・筑波大学名誉教授 安藤 邦廣
近年、農村部では茅葺き民家、街なかでは町家や蔵が空き家となって放置され、やがて朽ち果てていく状況が全国各地でみられます。これは、それらが現在の生活様式に馴染まない部分があること、あるいは、地域の高齢化や人口減少などで、その改修や維持管理が大きな負担となっていること、など様々な要因があります。
しかし一方で、これら古民家や町家、蔵を改修して居住したり、他の用途に転用して地域の活性化に取り組む事例が増えつつあります。これは、民家に培われてきた生活様式、つまり家族や地域社会に開かれた家のありようが見直され、また、伝統的建築物がつくる地域景観の重要性や、林業や製材業、建設業等の地域産業の活性化など、まちづくりの1つの手法として再評価されているからでもあります。
古民家には人を結びつけ、人を元気にする知恵と力が備わっています。幸いにして、福島県は全国的にみても、茅葺き民家や蔵が数多く残されている県と言えます。
古民家は個人の財産ではありますが、掛替えのない地域の宝でもあります。そこに世代や地域を超えて人々が居住し、交流する場として、改修し活用していこうとする取り組みを私も応援したいと考えております。さらに、個人と地域が協同して、維持管理しながら活用し続け、次世代に引き継いでいく事例が1つでも増えることを心からお祈りいたします。