古民家等空き家を活用して地域を元気にするセミナー
平成23年1月26日「古民家等空き家を活用して地域を元気にするセミナー」の様子を掲載しました。
■概要
ふくしまの家地域活性化推進協議会(事務局=県耐震化・リフォーム等推進協議会)は26日、福島市のコラッセふくしまで「古民家・空き家は地域の宝 新しい視点で発見」をテーマとした第5回耐震化・リフォームセミナーを開き、行政、関連団体、一般など150人が聴講した。
耐震改修のパネル展示や、住宅相談も行われた。
■講師:建築家・筑波大学教授 安藤邦廣 氏
古民家研究の第一人者で、セミナー全般に協力した安藤邦廣筑波大学教授が「民家の復活と地域の未来〜茅とスギの資源の活用」について講演。安藤教授は、古民家は歴史的で価値があるものだとする一方、ノスタルジーやブームとともに消費されてしまわないよう「未来の家」と位置付けてその重要さを解説した。
茅葺の材料となるススキやヨシは、森林の3倍もの二酸化炭素吸収があり毎年、枯れた草を刈り、建材とすれば屋根で呼吸もする。これを燃やすと有機肥料となり循環していく。さらに琵琶湖では水質浄化にヨシを利用しているという。
また、茅刈りはコツと道具さえあれば簡単で楽しく市民が気軽に体験できる。継続し民家の屋根の材料にするためにはこれが重要。体験型観光や二地域居住などにも展開できる―とした。
湿潤な日本では、草原は放っておけば杉林などに変わってしまい激減している。古来、草原には堆肥、薬草、牛のえさ、燃料といった効用があったが、昨今はレクリエーション、生物多様性、二酸化炭素吸収、水源涵養、伝統文化といった新しい価値が見出されており失ってはならないもの。草原を維持するには毎年刈り取ることが必要で、これが茅葺き屋根を維持させる大きな理由と逆説的に説いた。
数年前に農林水産省が実施した農業施設調査によると、茅葺きは本県には4241棟あり全国一。中でも会津坂下町は1700棟あるという。本県はこの恵まれた環境を継続させるためにも草原を復活させる必要があり、大きな視点で古民家の未来を見るべきとした。
■講師:Open A 代表・東京R不動産ディレクター・東北芸術工科大学準教授 馬場正尊 氏
馬場正尊東北芸術工科大学准教授(Open A代表)は「空き物件を再利用するメディアとツール」と題して講演した。馬場准教授は「古い建物を再生することで町を元気にする」ことを7〜8年手掛けているが、そのきっかけは、不良債権化したビルのリノベーション依頼を外資系銀行から受けた際に「経済的に弱くなったものをデザインの力で再生させる」ことに興味を覚え、新しい時代に必要な感性ではないかと友人たちと「Rプロジェクト」を立ち上げたことという。
デザインを研究するために米国に渡り、ゴーストタウン化し家賃も安価となったため、ギャラリー街に変身した中華街や、ロスの廃業したデパートがミュージアムとなった例など数々のヒントを得た。
また、自分たちがほしい物件と不動産屋側が薦める物件とのギャップから不動産サイト「東京R不動産」を立ち上げた。これまでの不動産業者が行っている部屋数や駅からの距離といった「性能」を基本とした情報ではなく、「レトロな味わい」「改装OK」「天井高い」「倉庫っぽい」といった形容で紹介し人気サイトとなった。
この活動の縁で手がけた築70年のビルから住宅、再建築不可アパートから利回り30%の人気賃貸住宅、廃墟マンションからギャラリーといった具体的なリノベーションの事例を示し、さらにこれまで「点」に過ぎなかった改装やイベントを馬喰町では30日間、30カ所の空き物件を借り、ギャラリーとして使用する試みを7年続けたところ、空き物件の利活用提案が蓄積され、元気のなかった地区が文化の発信地域に育ったと紹介。「20〜40代前半の人々はむしろ、カスタマイズできる物件を欲しているのではないか」とした。
現在は、東北芸術工科大学で教鞭を取っており、山形市で空き物件を探したところ、予想外に中心市街地に多くあり東京のように物件を紹介するのではなく、普通の物件での利用の仕方を学生とともに考えることとなった。
町中の旅館をシェアアパートに変えるため、利用者を募ってから収支を確定し山形銀行に掛け合い融資を受けた。山形ドキュメンタリー映画祭をきっかけに空き店舗をアジアハウスにも変更。現在は地元老舗の不動産屋と提携し仲介も行えるよう企画しているという。
山形の帰りに立ち寄った本県では、駅から10分程度のところに立派な古民家があるのを知り、「フルで住まうのは難しいが3日、1週間など欧米のようなバケーションレンタルはどうか。維持管理をしっかり行えば家族で田舎を楽しむ需要はある。利用することで、保存していく方法がある」と述べた。
■事例報告:はりゅうウッドスタジオ 取締役 芳賀沼 整 氏
−天栄村湯本地区の空き家活用基本設計について−
講演に先立ち、県内3カ所に実存する古民家、蔵を題材に行われた古民家等空き家活用プロポーザル競技のうち、天栄村湯本地区で最優秀賞となったはりゅうウッドスタジオの芳賀沼整氏が、空き家活用基本設計について事業報告した。
芳賀沼氏は「今回は集落活性化を図るためのもの。空き家は都市部の建物ではすぐ改築されるが、湯本地区では資金調達が難しい。コスト削減を強く考え、どう成長させ発展させるか、建築家はそれが実行されるまで継続して見続けるべき」と述べたほか「現在、茅葺の職人として2人が修行中。茅葺だから4年で一周と決めず、現在の板金をかぶせた状態でもよしとする柔軟性も持ってはどうか。結いの仕組みを活用しながら、湯本地区のシステムの中で作り上げてほしい」とした。
同計画に、住民の一人として深く携わっている小山志津夫天栄村産業振興課主幹兼商工観光グループ長は「プロポーザルにより基本設計までできており、村では実際に改修し住民が使っていく方向で考えている。既に、住民が茅を調達し再生する“結い”の仕組みの中で、改修する古民家に携わっていきたいという同意形成は住民にできている。発展する地域であり、ぜひこの地区にきてほしい」と話した。