「決めては、その地域をいかに好きになるか」−古民家ツアー
初日
全国的に定住・2地域の動きが活発化する中、ふくしまの家地域活性化推進協議会(事業管理者=県建設業協会、事務局=県耐震化・リフォーム等推進協議会)はこのほど、首都圏からの希望者を募り、本県へのバスツアーを実施。1泊2日の行程で、三島や喜多方の古民家を改修した生活体験住宅などを見学した。試験的に住むことができる物件と住環境を見てもらい、体験者の話を聞くことで移住等につなげるもの。参加者の動機はさまざまだが移住等への“本気度”は高く、ツアーで紹介された体験施設が気に入り「ぜひ、売買契約につなげてほしい」という申し出もあった。
参加した6人はいずれも東京、埼玉、神奈川の首都圏居住者の中高年。県観光交流課から福島の情報を定期的に送付される「ふくしまファンクラブ」の会員でもある。ツアー参加の動機も「雪が嫌いで東京に出て行ったが、また恋しくなった」「サラリーマン時代から畑を耕したかった」「天井が高い家に住みたい」「孫を自然の中で育てたい」「東京近辺出身で郷里を持たないため、田舎に帰ってみたい」などさまざまだ。
チャーターしたバスで東京駅八重洲口を出発。本県の基本的な情報をDVDや県の担当者の紹介で得ながら一路、三島のH邸へ向かう。
国道252号から北側に入った川井地区で、寄せ集まった集落の赤屋根が印象的。家屋は6畳2間、10畳、20畳とキッチンに、かつて養蚕も行った名残のある中2階と蔵も付いている。このうち、1階部分を貸し出し「生活体験の場」に利用してもらう。家庭菜園よりは大きい畑も付いているが、短期の試用期間では収穫の喜びを得るのは無理かもしれない。参加者からは駅からの距離、家屋の改造の可否などの質問が矢継ぎ早に出された。
この後、旧国道252号に移動し定住・2地域居住のための生活体験館「のんびり館」へ。県の21年度ふくしまの家地域活性化支援事業を活用し再整備した元旅館で、往時の面影を残しながらもトイレや風呂場は一新。1泊2日2食付7000円でここを拠点に奥会津を堪能できる。相談によっては長期滞在も可能な施設だ。4月にオープンしたばかりだが、入り口には利用客が感謝を示したメッセージ板がずらりと並ぶ。
ここで既に同町に移住してきた人々の体験談を聞く。「写真が趣味で、只見川の川霧を撮影するために会津に来ていた。取り壊す公民館があると聞き、同意を得て改造し借りて住んでいる」「田舎暮らしに興味があり、キャンプをしながら移住地を探していた」「工人祭りによく来ていた。大内宿の茅葺研修があると聞き参加もした」「祖父母が三島町出身。酪農の知識を生かし3月まで青年海外協力隊としてパラグアイで活動していた」などさまざまな動機、現況を話すが、皆一様に「自然の豊かさ」「住民の暖かさ」を口にする。
ツアー参加者からは「森林セラピーや川散策などが流行っている。だが、ここでは歩道が途中でなくなっており、もっと自然道などインフラ整備が必要。面白い展開になると思う」「生活支援などは町側から見た発想ばかりで、われわれが来たいと思うものではない」などの辛口の意見も出されたが、「田舎は不便というが、何もかもすべてそろっているものを求めているわけではない。自然がいっぱいで人間関係を築き上げ、すぐあいさつを交わせるところがいい。多少不便でも溶け込めたらいいと考える」との考えも出された。
写真で見るツアーレポートは
こちら→
「広い家」にとまどい
「家が広すぎ。小さい物件はないか」「われわれのような高齢者が移住することで、皆さんの迷惑になるのではと心配」など予想外の質問もあったが、「家が大きい方が、開放感がある。それが田舎」「この辺りでは世間でいう高齢者はまだまだ働き手。元気に暮らせばよい」「皆さんの友達、子ども、孫が遊びにきてくれれば十分」と安心させる言葉もあった。
若者が集落を離れる一方、親から譲り受けた持ち家を売るのは嫌という人が多い現状には「家を持つというより地域を楽しむことに主眼を置いてはどうか。所有の概念を捨てタイムシェアの考え方を取り入れては」「家は使用しなければ痛む。賃借料を得て家を貸すのではなく、むしろ維持してもらっており、お金を出すくらいの発想の転換があってもいいのでは」とした意見もツアー客から出された。
視察したH邸を担当する尾崎不動産も「今、課題となっているのは、せっかく移住しても帰ってしまう事例が多いこと。物件よりも前に、その土地、地域を好きになるかどうかが大切」と話す。
この日は西山温泉滝の湯旅館に宿泊し地元感満載の山菜料理に舌鼓。だが近くを流れる滝谷川のせせらぎで眠れない人も。翌朝、消防団や山菜取りといった土地での生活について、若い宿の主人が温かみあふれる語り口で話す。どれも都会では体験し得ない出来事ばかりで、パンフレットでは分からない日常が想像できる。
2日目
翌日は、雨も上がり喜多方に直行。上三宮町一面に広がる田の中に、遠くからもぽつんと際立つ豪邸が見える。さながら日本昔話で見る庄屋様や長者の屋敷。生活体験住宅T邸だ。
以前は料亭として使用していたという、松などが茂る和風の庭の中に築70年の古民家と、レンガ造りの蔵群が雰囲気を作り出す。2つある玄関を入ると、大きな魚の自在カギのついた囲炉裏が目に付く。ざっと数えただけで10畳間と7・5畳の座敷をはじめ7・5畳、6畳、8畳、12・5畳と6室+2階で100坪余り。1家族では使い切れないほどの大きさの家だ。大学のゼミ研修所として使用したこともあるようだ。参加者は広さに圧倒され、四方に散って熱心に住宅の隅々を探検し口々に感嘆の声を上げている。参加者の一人は天井の高さ、家が持つ雰囲気を気に入ったようで「こんな物件はなかなかない。賃貸ではなく売ってはもらえないか」と担当者に掛け合っていた。
ここでも首都圏から移住し現在、喜多方蔵のまちづくりセンター主任研究員を務める金親丈史氏(会津建築工芸舎)の体験談を聞く。金親氏は世田谷で建設関係に従事していたが木、民家の勉強がしたいと移住を決意。「住むなら山間部」と、あらゆる県の町村役場に空き家がないかしらみつぶしに尋ね、本県でも金山、只見、昭和などで聞いた。条件は「水周りをいじらずにすぐ住める」こと。そこで本県の三島町と信州が候補に残り、当時14世帯のみの集落だった早戸地区に移住を決意した。
「寒さ対策で付けてあるベニヤ板をはがすと、骨太の美しい構造が現れる」「プロに頼まなくても改修できる部分もある」など、建設関係者ならではのアドバイスもあり、“雪かたし”の苦労や競売物件の見方など、さまざまな観点からの注意点を話し、「まず気に入った土地の活動に参加してみれば、情報量は飛躍的に高まる」と激励した。喜多方市や、市内の各種支援団体が取り組む活動も紹介された。
この後、喜多方市内に移動し、土蔵を改修し住まいとしている事例を見学。施主から話を聞き、蔵が至るところで活躍している町の様子に感嘆しつつ写真に収め市内を散策後、帰路に就いた。
最後に
今回のツアーはふくしまの家地域活性化推進協議会が主催したが県建築指導課、県観光交流課、各訪問地の自治体、NPO支援団体など行政、民間問わず多くの人の協力で成り立っている。移住に至れば望ましいことだが、何より「本県を気に入ってもらいたい」という一心で事に当たっているようだ。参加者は、自然の多さや、畑仕事をしてみたいといった表層的な田舎暮らしへの憧れというよりも、厳しさも含め「生活そのもの」を田舎暮らしにシフトしたい姿勢が強く感じられたが、特に古民家へのこだわりは感じられなかった。
財団法人職業技能振興会によると、古民家の定義はないようだが、国の文化財登録制度が築50年であることから「50〜60年以上」としている。物件は、跡継ぎが土地を離れるなどして、住み手がいなくなったものが中心。市場にも多くは流れて来ないが、農業振興地域に立地して既存不適格物件となっている例もあり、個人売買には注意が必要という。